仙台のピアノ調律師・岡です!ピアノをお持ちの方、調律って自分でできないのかな?と思ったことはありませんか?一度は思いますよね?私も、小さい頃からピアノを習っていて「調律を自分でできたら、良いなあ。音はその場で治るし高い調律代も払わなくていいんじゃない?」と思ったことがあります。(結果、調律師になったわけですが)今日は、調律師じゃない人がピアノを調律したらどうなる?をシュミレーションしてみたいと思います。
1.ピアノ調律に必要な道具を揃える
ピアノ調律師の鞄は何キロあるでしょう?とても重そうですねと言われることが多いです。答えは・・・持ち歩けるものだけで5~10kgです!調律師にもよりますが、数キロ〜十数キロが多いのではないでしょうか。
何が入っているのか?と言いますと、数グラムから数キロの工具がおそらく百数十種類(数えたことがないので正確にはわかりません)。そのほか、普段あまり使わない工具は移動用の車に積んでいたり、修理工房を持っている人であれば持ち上げられないほど重い工具(ピアノを運んだり、ひっくり返したりする類のもの)もあります。
ネットで「ピアノ調律 工具」と検索すると、実にお手頃で簡易的な調律セットが売られていますが、あれはほんの一部なのです。特にチューニングハンマーは調律師のこだわりポイントであり、しっくり来るもの・操作しやすいものに出会うまで長い年月を要します。
私も今のチューニングハンマーにたどり着くまで10数年かかっており、その間にはこれでもない〜あれでもない〜とたくさん購入し試行錯誤、ハンマーだけで十数万円溶かしております。
よって、調律師ではない人が自分に合ったハンマーを選ぶのはもっと時間がかかるのではないでしょうか。
2.ピアノを分解する
なんとか工具を手に入れたとします。では調律をしてみましょう、ということでピアノの外装(ピアノ本体の黒い部分)を外します。グランドピアノは、譜面台を手前に引きスライドすると外れてチューニングピンが見えますね。
ではアップライトは?というとメーカーにより開け方が異なります。
私は中学生の頃、ピアノ調律師に憧れて興味本意から一人で外装を外しました。とても重く、長い板ですのでバランスを崩し畳に落としそうになりましたがなんとか外すことに成功。しかし外装を本体に戻すとき、やり方がわからなくなってしまったのです。どうしても、正面のパネルが本体に乗らないのです。
当時は外装には”ダボ”が付いていることを知らないゆえの愚行でした。格闘の末結局、なんとか戻せたものの、腕はプルプル次の日筋肉痛になりました。幸いなことに、落として破損したり傷をつけたりはありませんでした。
ピアノの構造を知らないと、思わぬ事故を招いたり破損につながります。
3.いざ、調律!!
仮に外装をはずせたとして、調律に移っていきましょう。チューニングウェッジを弦に挟み、ハンマーをチューニングピンに固定します。チューニングピンはネジ構造になっておりますので音を高くしたい場合は締めて、低くしたい場合は緩めます。なんとなく、この音がおかしい・直したいというところが特定できました。
さて、その直したい音の音程を高くチューニングしたらいいか、低くチューニングしたらいいか?どちらにしたら音が合うのか、わかりませんね。
とりあえず、音程を高く(締める)してみると音がどんどん変わっていきます。やりすぎたので今度は緩めて音を低くしますが、ちょうど良いところが通りすぎてしまいます。また高くして・・・そして何回も調律を繰り返しているうちに、突然『バン!!!』という音とともに弦が切れました。
このシチュエーション、書いていてドキドキしました笑(別の意味で)。弦が古くなっていたり金属疲労が起こっていると、ピアノの弦は切れやすくなりますし、私たち調律師も何年かに一度はこの”調律中の断線”を経験します。なんかこの弦切れそうだな、というのが経験上うっすらわかったりしますので、そういうピアノの時はなるべく慎重に調律しています。
逆に、まだ調律に慣れていない頃・調律学校の在学中や就職して1〜2年目などはチューニングハンマーをどう扱ったら良いのかわからないも同然ですので、よく断線する傾向にあります。
ピアノ調律と断線は、切っても切れない関係なのです。(座布団一枚)
4.終わりに〜衝撃のエピソード〜
今回は調律を一部ご紹介しました。ピアノ調律といってもそのほかに、整調(アクションやペダル、鍵盤の調整)や掃除、整音(ハンマーの形や柔らかさを変えて音色を整えること)があり、数十キロの工具が存在しています。
かつて私が調律学校に入っていた頃、ピアノを壊してしまわないだろうかととても緊張しながら調律すると共に、ピアノを興味本位で分解した中二の私に恐ろしさを感じました。今でもごくたまに、一体誰がやったんでしょうね・・ピアノの内部をわざといたずらして破損させたり、外装を傷つけられてしまったピアノを見かけることがあり、胸が痛みます。皆さんには、意図せずともそんな悲しいことにならないようにしていただきたいのです。
ピアノは、木・金属・羊毛・革などの一見ありふれた材料でできており、何より頑丈に見えます。が、8千〜一万個あると言われている部品一つ一つがとてつもない精度で作られており、組み立てのや製造のほとんどが手作業です。
最後に衝撃のエピソードをご紹介。
私のかつてのお客様が、ご自身のピアノの弦を電動工具か何かでピカピカに磨き上げてしまったことがあります。そのピアノ、それからどうなったと思いますか?
元々、工場で調整されていた弦圧が完全に変わってしまい、寸法もぐちゃぐちゃ。めちゃくちゃに音が狂っていたことはもちろん、何回調律してもしても音が安定せず、お手上げ状態・・それきり、調律を承ることができずお客様との縁も切れ、ピアノの状態も取り返しのつかないこととなってしまいました。無知って怖いです。
かけがえのないピアノ、どうか大事にしてほしいと思います。
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